新潟は一日中天気が悪く、もやのような、霧雨のような、ぼんやりとした白い空気に包まれた日だった。
景色を眺めるのには、晴れているのに越したことはないのだが、雨や霧がかった天気にしか見られない風景もあるもの。。。
などと思い、車で所用に出かけた帰りに、ちょっと近くの山に立ち入ってみたのだった。

あまり利用価値もなく、普段の晴れた日でも薄暗いこの暗い峠道は、この霧に濡れてひんやりとした空気に包まれていた。
細い峠道を上って行くと、霧は一段と濃さを増し、樹々の間に立ち込めて幻想的な風景を作り出してした。

日もどっぷりと暮れ、さらに暗くなってきたので、車に乗り込み今来た道を引き返すことにした。
下って行く途中、脇に延びる一本の細い道が目に入った。
来る時には気がつかなかったのだが。
『立入禁止』地図には載っていない道のようだが。。。
車から降りて、立入禁止の向こうへ少しだけ行ってみることにした。
ほんの少し入っていったら、道は覆い茂る草木にかき消されていた。
これ以上は行けないのか。
そう思っていたら、目の前の藪から男と女が歩いてきた。
山菜取りだろうか? こんな薄暗い日に?

私が驚いてあっけにとられていると、男は
「この先は行き止まりですよ」 と私に言った。
行き止まりなんですか?と聞こうとしたら、今度は女性のほうが
「私達はまだ仲良く暮らしていますから、立ち入らないでくださいね」 と私に告げた。
二人とも若いのか歳をとっているのか、よく判らない顔立ちだ。
が、着ている服装は、明らかにひと昔・・・いや、ふた昔は前のものだった。
女性の言葉の意味を考えようとしているうちに、男と女は私の後ろへ去って行った。
二人が遠くに立ち去るのを見届けた後、私はあまり深く考えることなく藪の中へ道を辿った。
草木をかき分け、しばらく進むと、目の前に広場が開けた。
そこには、原型を留めないほどに崩れ落ちた、廃屋と
傾きかけたいくつかの、墓石が、
霧の中に虚しく押し黙ったまま、立ち並んでいるだけだった。
気配を感じた。
誰かが、見ている。
後ろに、
私の後ろに、何かが揺らめいている 。 。 。
そんな、ありふれた安っぽい怪談を 『立入禁止』 の前で妄想し、独り身震いしてみたのだった。
こんな霧の濃い日、先の見えないカーブの向こう側に、異空間への入り口が、ぼんやりと、待っているのかもしれない。




